Sunday, February 05, 2023

夢の完全養殖へ前進! ウナギの「赤ちゃん」のえさ解明へ

夢の完全養殖へ前進! ウナギの「赤ちゃん」のえさ解明へ

  • 2022年06月20日

絶滅危惧種に指定されているニホンウナギ。ふ化したばかりのいわば「赤ちゃんの」時期のえさが分からず、シラスウナギの大きさに育ったものを捕まえなくては、養殖が困難なのが現状です。夏バテでウナギが恋しくなる時期を前に、この壁を打ち破って完全養殖の実用化につなげようと、鹿児島大学の研究グループが取り組んだ最新の研究を紹介します。

鹿児島局 記者 堀川雄太郎
映像取材 桑原健史

えさは動物プランクトンのふん!?

日本からおよそ2000キロ離れたマリアナ諸島の周辺海域で生まれるとされるニホンウナギ。ふ化直後の採取が難しく、いわゆるウナギの赤ちゃんが何を食べているのか、これまで研究は困難でした。そこで鹿児島大学水産学部の久米元 准教授らの研究グループが着目したのは、鹿児島湾にすむギンアナゴやウツボ、ハモなどウナギ目の魚です。

7年前から、これらのウナギの仲間たちの「レプトセファルス」と呼ばれる大きさ数十ミリほどの、ふ化したばかりの状態の個体を鹿児島湾で採取し、その消化管のDNAを解析して、何をえさにしているか探ってきました。


その結果、「カイアシ類」と呼ばれる動物プランクトンや、「オキアミ」の仲間の遺伝子が多く検出されました。さらに顕微鏡を使って「カイアシ類」のふんと、消化管の中身を見比べたところ形が一致していることも判明。
ウナギ目の魚がふ化したばかりの時期に「カイアシ類」のふんを主なえさとしている可能性を突き止めました。

鹿児島大学 久米元 准教授

「今ニホンウナギの資源量が減っていて、廉価な完全養殖が望まれていますが、その初期の餌料の開発につながればと思っています」

なぜ期待? ウナギの“完全養殖”

日本人にとってごちそうの代表格とも言えるウナギ。その完全養殖に大きな期待が寄せられている背景には、養殖で育てるニホンウナギの稚魚「シラスウナギ」の漁獲量の減少があります。

シラスウナギは、日本からおよそ2000キロ離れたマリアナ諸島の周辺海域でふ化したあと、黒潮などの海流に乗って日本や韓国、台湾などの沿岸に回遊します。国内では昭和30年代には年間200トン以上の漁獲量がありましたが、昭和50年代後半から50トンを下回り続けていて、3年前には3トン余りにまで落ち込みました。
県内でも平成21年度以降の漁獲量は1トンを下回り、平成30年度には、136キロと記録的な不漁となりました。
去年も12月1日にシラスウナギ漁が解禁されましたが、3月25日までの90日間の漁獲量はおよそ440キロで、前の年度よりも60キロほど少なくなりました。

志布志湾に面した大崎町の海岸では、シラスウナギ漁が盛んに行われています。県の許可を得て大崎町で40年以上、シラスウナギ漁を続けている湯尻岩男さんは、その急速な減少に危機感をおぼえています。

湯尻岩男さん

「ほとんど取らずに帰る人もいます。年々目に見えて少なくなってきています」

今回の成果を足がかりに養殖研究進むか

謎が多いニホンウナギの生態。ふ化したばかりの時期は、「マリンスノー」と呼ばれる生物の死がいやふんなどを食べているとされてきたものの、具体的に何を食べているのかが分からず、完全養殖の実用化に向けた壁となっていました。

今回の研究では鹿児島湾で採取できるウナギの仲間を研究対象としましたが、「カイアシ類」はニホンウナギが産卵するマリアナ諸島沖を含む海洋の広い範囲に生息しているため、同様のえさを食べているとみられると言います。
人工授精やえさの開発を進めている鹿児島大学水産学部の小谷知也教授の研究グループは、今回の研究結果に大きな期待を寄せています。

 

鹿児島大学 小谷知也教授

「養殖というのは天然の生態のトレースのようなものなので、天然でのウナギ目の赤ちゃんのえさが分かったというのは非常に重要な知見だと考えます」

さらに、ウナギの生態に詳しい九州大学大学院の望岡典隆特任教授は今回の研究について次のように話しています。

九州大学大学院 望岡典隆特任教授

「『レプトセファルス幼生』が何を食べているのかということは、これまで消化管の中に形のあるものが見つからなかったため、世界の魚類学者を悩ませてきた1つの問題だった。
今回は複数の新しいテクニックを駆使してえさを明らかにしたという点で大変画期的な成果だ。カイアシ類のふんの中にふ化したばかりのウナギ目にとって非常に重要な栄養があるからこそ選択的に食べていると思う。
ふんの中の何が成長を支えているかといったことを明らかにできると、新たな餌料の開発に大きなヒントになるだろう」

取材を終えて

シラスウナギ漁の取材では、冬の冷たい風が吹く中、波打ち際で漁をする人たちの姿を、私も水に浸かりながらカメラを回しました。
苦労があるからこそ、おいしいウナギが食べられるのだと改めて強く感じました。
ウナギの養殖が盛んな鹿児島県で、完全養殖の実用化に向けた研究の最前線を今後も取材していきたいと思います。 

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