Tuesday, June 17, 2014

逆風やまぬ、うなぎ業界

逆風やまぬ、うなぎ業界
絶滅危惧種認定の衝撃

今夏の土用の丑の日は7月29日。うなぎの需要のピークを翌月に控え、うなぎ業界に衝撃が走った。6月12日、世界の科学者で組織する国際自然保護連合(IUCN、スイス)が、絶滅の恐れがある野生動物を指定する「レッドリスト」にニホンウナギを加えたからだ。
「ニホンウナギがワシントン条約の規制対象になることを一番恐れている」
 日本養鰻漁業協同組合連合会の白石嘉男会長はこう話す。2013年2月、既に環境省がニホンウナギを絶命危惧種に指定しており、白石会長はその頃から危機感を持ち始めたという。

稚魚が輸入規制されれば死活問題に

IUCNのレッドリストには法的拘束力はなく、うなぎが禁漁になるなどただちに業界に大きな影響が及ぶものではない。だが、ワシントン条約はこのレッドリストを保護対象の野生動物を決める際に参考としており、今後、ニホンウナギが規制の対象になる可能性がある。
 ワシントン条約では絶滅の可能性がある野生動植物を保護するため、対象となる動植物の輸出入を規制している。ワシントン条約と聞けば、アフリカゾウの取引を想起する読者も多いだろう。高値で取引される象牙目当てに乱獲が続いたため、1989年にワシントン条約でアフリカゾウの国際取引を禁止した。
 国産うなぎは99%以上が養殖だ。明治時代から100年以上の歴史があり技術も確立しているが、卵を孵化させて成魚まで育てる完全養殖はまだ量産化されていない。そのため、シラスウナギと呼ぶ、ニホンウナギの天然の稚魚を6カ月から1年半、育てて出荷するのだ。
 このシラスウナギは近年、日本近海での漁獲高が減少し、半数以上が中国や台湾など海外からの輸入に頼っている。シラスウナギが海外からの輸入であっても、日本国内で養殖すれば「国産」をうたえる。もはやシラスウナギの輸入は国産うなぎにとって不可欠になっている。そのため、ワシントン条約でニホンウナギの取引が規制されれば、シラスウナギを輸入できなくなり、養殖業者に打撃となる可能性がある。
「シラスウナギの輸入が禁じられれば養殖業にとって死活問題になる」と白石会長は強調する。
ここ数年、ウナギ業界は逆風に立たされていた。2010年から2013年まで4年連続で海外を含めたシラスウナギの不漁が続いているからだ。2009年には1キログラム当たり38万円程度で取引されていたシラスウナギ。その後、文字通りうなぎ登りに高騰を続け、2013年には平均248万円にまでなった。一時は300万円を超えたこともあった。
 これに対して養殖業者からは「金価格並みの異常事態だ」と悲鳴が上がった。金の価格は1キログラム当たり400万円台で推移している。金価格と比較してみれば、シラスウナギの価格高騰がいかに異常なことかが理解できる。
 店頭や飲食店でもうなぎの値段は上がり続けた。それでも需要があり、成魚を高値で販売できるならば、生産者にとって困ることはなさそう。だが白石会長は「消費者が敬遠するような値段で提供せざるを得ない状況が続けば、消費者のうなぎ離れが進んでいく可能性がある」と危惧する。
 国産の生産量の減少もあり、うなぎの産地偽装も問題となっている。今年1月には静岡県のうなぎ加工業者が国産を入手できず、中国産を国産と偽って販売していた罪で逮捕されるなどの事件が起きている。

政府と業界が一体となり対策急げ

だが今年、こうしたうなぎ業界を取り巻く厳しい状況に変化が起きた。久々にシラスウナギの漁獲高が回復しているのだ。
 国内だけではなく、台湾や中国でも好漁で価格は1キログラム当たり80万円程度と前年の4分の1まで下がった。業界関係者も「今夏の土用の丑の日は、久々にかば焼きの値段を下げられるのでは」と期待を寄せていた。
 それだけに今回の絶滅危惧種のリスト入りは、その気勢をそぐものとなってしまった。
 うなぎの取引が規制されることで懸念されるのはブローカーの暗躍だ。現在でもシラスウナギが不漁で入手しづらくなったことで、法外な値段を提示するブローカー登場している。さらには、ニホンウナギの稚魚だと称して別の種類のウナギの稚魚を販売する詐欺行為も起きているという。
 シラスウナギの取引規制に対して有効なのは完全養殖だが、その量産化はまだ道半ば。また、シラスウナギに育てるまでの飼育代など、これまでの天然のシラスウナギから養殖するのと比べてコスト高になるのが課題だ。
 一方、ここ数年、シラスウナギが不漁だったことからも、絶滅が危惧されるニホンウナギを保護することは大量消費国である日本の重要な役割でもある。
 水産庁はシラスウナギの漁獲量を監視、規制する国際組織を立ち上げようと動き出した。さらには国内の養殖業者に対して生産量の規制をかけていく方針だ。
 適正な価格での流通を守りながら、種の保存に最大限配慮する。政府と業界が一体となり、対策に乗り出すべき時期に来ている。

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